terunojou_51’s blog

しがない役者の生活録。

あくまでも私見ですが…

衝撃的な報道から10日。

いまだ不明瞭な情報が多く、事件の全容が掴めていない

澤瀉屋の「市川猿之助」さん一家心中。

 

当代・猿之助さんのお父様である市川段四郎さんと

その奥様がお亡くなりになってしまった。

猿之助さん自身も緊急搬送されたが助かり

何とも後味の悪い事件の上っ面がばかりが報道され続けている。

 

この事件の発端と思われているのは某週刊誌にすっぱ抜かれた

市川猿之助さんのパワハラ・セクハラ報道だ。

 

猿之助さんは現在の歌舞伎興行において

ご自分の名前で興行が打てる稀有な人材である。

それは先代・猿之助さん(現・猿翁さん)の功績によるところが

多分にあるだろう。

それでも当代は

ご自身が襲名した名跡の意味をよく熟知し

名前負けすることのないよう意欲的に活動されてきた。

それ故に、今回の報道によるダメージは大きい事だろう。

 

そもそも歌舞伎には現代演劇における演出家や舞台監督といった

専門のポジションがないのは有名だ。

それはひとえに

芝居ごとに座頭(まぁ主演のことだが、歌舞伎では主演という言い方はしない)が

存在しており、この座頭が演出の役割を果たしている。

俗にいうお家芸という言葉がある通り

そのお家ごとに演出(型)があるため

座頭以外の役者はその演出を理解して各々の役どころを演じている。

また、芝居ごとに狂言作家がついており

初日前後はプロンプターをやったり舞台監督のようなことを担当している。

 

近年では外部の演出家が入り

台本の補綴なども担当することが多い(野田秀樹さんや串田和美さんなど)。

それでも基本的には座頭中心で舞台を作り上げるのが定例となっている。

 

しかし新作歌舞伎であったり、特に澤瀉屋の芝居に関しては

演出というポジションがつく…といっても

やはり座頭がそのポジティブを占めているのだが

脚本・演出・主演を兼任となると

その座組での権力は絶大なものだろう。

 

そうなると、今回の某週刊誌にあるような

パワハラ・セクハラ報道の信憑性は高まってしまう。

それに事実だとすれば

コンプライアンスに厳しい現代社会にあって

由々しき事態ともいえる。

しばしばその旧態が問題視される歌舞伎界であっても

この問題は看過することは出来ないし、させてはいけない。

 

しかしながら、苦言がある。

ジャニー喜多川氏の性加害報道のような

明らかに被害を受けた方が声を上げた事例があるなかで

匿名による記事を出すことに正義はあるのだろうか。

例え男女の違いはあっても

セクハラ被害を受けた者が実名で被害を訴えることは

難しいことだろう。

だからこそ、この手の記事を出す際には

慎重にならざるを得ない。

そうでなければ加害者として告発された者の

人権が守られないからだ。

ましてや今回の報道において被害を受けた方は男性。

そして加害者とされたのは市川猿之助さん。

セクシャリティの問題も内包している。

 

この手の報道は役者によっては死活問題だ。

以前、成宮寛貴さんに薬物疑惑が出た際に

成宮さんが若い時分に男性相手に体を売って稼ぎ

弟を大学にまで進学させた云々…ということまで報じられた。

これが事実なのかは当の本人でなければわからないが

それでも成宮さんがこ業界に嫌気がさし

役者業から引退するには十分であった。

 

話が脱線してしまったが今回の一件。

たしかにパワハラ・セクハラは問題だ。

これに関しては、猿之助さんご本人の釈明もとい

説明責任を果たしてもらうしかないだろう。

そのうえで、告発するにいたった役者と

和解なり示談をするしかほかに道はない。

そして少しでも早く

興行元の松竹や諸先輩方、同輩、御贔屓筋の許しを得て

役者の道に戻られることを望むばかりだ。

 

だがしかし、今回の一件で失われた命があることも事実だ。

このような形で失われていい命なんてあるわけない。

病気を得て以来療養中だったとはいえ

先代・猿之助さんを支えた市川段四郎とういう役者の最期が

このような終わり方になってしまったのは

本当に無念でならない。

 

直接的か間接的かに関わらず

当代は常に親殺しの罪業を背負うことになるだろう。

襲名以降、猿翁さんが舞台から離れてからは

澤瀉屋一門を牽引してきた当代・猿之助さん。

自らが招いたこととはいえ、あまりにもつらい重荷を背負うことになった。

しかし彼は一人ではない。

猿翁さんの薫陶を受けた門人たちが支えてくれるだろう。

そして時代を担うべき芽も育ち始めている。

 

歌舞伎を見たことない人にとって

今回のパワハラ・セクハラ報道は娯楽であり

一介の役者の不祥事でしかない。

それを乗り切るためには

多くの方のご声援が必要だろう。

ここで消えてしまうには

あまりにも歌舞伎界への損失が大きい。

そんなことで消えるほどのものか…と思う人もいるだろう。

コロナ禍よりこの方、急速に変わりつつある現代社会に

歌舞伎を適合させていく担い手として

猿之助さんの持つ影響力は欠かせないだろう。

これは演出として磨いたものが大きい。

 

最期になりますが…。

演劇はそもそもブラックな職種だと思っています。

むしろホワイトであるほうがおかしい。苦笑

時間は無限にあるわけでなく

常に限られた尺の中で

しかも最大限良い芝居を作り上げなければなりません。

それでもその仕事を続けられるのは

その仕事が好きじゃないと成り立ちません。

某週刊誌報道で被害を受けた方がいらっしゃるのであれば

なぜマスコミにリークしたのか。

興行元の松竹に訴えることは出来なかったのか。

そうすれば、不測の事態は免れたのではかいかと思って仕方がないです。

 

ともかく

一刻も早い心中事件の糾明と

週刊誌報道の全容解明を切に願っております。

 

光之丞